WAIS-IV(ウェイス・フォー)とは?わかりやすく解説

ウェクスラー成人知能検査(WAIS)とは?

知能は多様で複雑な概念であり、個々の能力を測定し理解するためにさまざまな方法が用いられてきました。その中でも、ウェクスラー成人知能スケール(以下、WAIS)は心理評価における金字塔とされ、多くの専門家に利用されています。この記事では、WAISが何であるか、その重要性、使用される構造、そしてそれを通じてどのように個々の知能が評価されるのかをわかりやすく解説します。

WAISとは何か?

WAISは、デビッド・ウェクスラーによって開発された成人向けの知能テストで、成人の知的能力を多面的に評価するために設計されました。初版は1939年に公開され、以来、その精度と信頼性の高さから世界中で広く使用されています。このテストは個人の言語理解、処理速度、記憶、論理的思考能力など、幅広い認知能力を測定します。

略称となっているWAIS(ウェイス)は、ウェクスラー成人知能検査の英語名「Wechsler Adult Intelligence Scale」の頭文字から取られています。このテストは、同世代の集団における知的水準を測定するための「IQテスト」として広く知られており、2024年4月現在、日本の最新バージョンは第4版となっています。

WAISのユニークな特徴

他の多くの標準的なIQテストと比較して、WAISは特に成人の複雑な認知プロセスを詳細に評価する点で優れています。このテストは、個々の強みと弱みを詳細に把握することができるため、教育、臨床、職業訓練など、さまざまな分野での適切な支援と介入策の決定に役立ちます。

そもそも心理検査ってなんでするの?どんな種類がある?

心理検査は、知能や発達の水準、パーソナリティ(人格)のあり方などを客観的に評価するためのツールです。病院や学校、施設などで現在の状況を評価し、今後の支援に活かすために実施されます。

心理検査にはいくつかの分類があります。

1. 知能検査・発達検査

知能検査や発達検査は対象者の知能や発達の水準を測定するものです。代表的なものには以下があります。

  • WISC-IV (ウェクスラー式知能検査): 児童向けの知能検査で、5歳から16歳11カ月までの対象者を対象としています。
  • WAIS-IV (ウェクスラー式知能検査成人版): 成人向けの知能検査で、16歳から90歳11ヶ月までの対象者を対象としています。
  • 田中ビネーV: ビネー式の知能検査で、年齢に分けられた問題群を実施する点がウェクスラー式との大きな違いです。
  • 遠城寺式乳幼児分析的発達検査: 乳幼児の発達を把握するための検査で、運動、社会性、言語の3分野で診断します。
  • 新版K式発達検査: 0歳から成人までの発達の水準を測定する検査で、姿勢・運動、認知・適応、言語・社会の3領域で評価します。
  • Vineland-II 適応行動尺度: 0歳から92歳までの幅広い年齢帯に対して、適応行動の水準を数値化できる検査です。

知能検査は、自己理解や問題解決に役立つ情報を提供する貴重なツールです。知能検査や発達検査は、以下の目的などで使用されます。

  • 知的障害の診断:知的障害の程度を評価するために行われます。
  • 特性の理解:個人の特性や能力の偏りを知るために活用されます。
  • 発達障害の診断:発達障害の疑いがある場合、知能検査を通じて特性を評価します。

2. 人格検査

人格検査は対象者のパーソナリティや性格、心理的特性などを測定するための検査です。主な種類には以下があります。

  • 質問紙法: アンケートのような用紙で「はい・いいえ」などを記入してもらう検査です。
  • 投影法: 一定の刺激に対する無意識的な反応を見る検査です。
  • 作業法: 一定の決められた作業を行う検査です。

具体的な検査には、Y-G性格検査、SDS(うつ性自己評価尺度)、ロールシャッハテスト、バウムテスト、TATなどがあります。

心理検査は、テストバッテリーとして複数の検査を組み合わせて実施され、より多角的かつ立体的な対象像を見いだすことができます。

WAIS-Ⅳについて詳しく

WAIS-IVは個々の知能の多面的な評価を可能にするため、10~15種類の下位検査から構成されており、これらの結果から全検査IQと認知領域別の4つの知能指数(指標得点と呼ばれています)を算出します。これらの構成要素はそれぞれ特定の認知スキルを測定し、被験者の知的能力の全体像を描き出すのに役立ちます。

指標得点は下記の4つがあります。

言語理解指数(Verbal Comprehension Index: VCI)

言語理解指数は、被験者が言葉をどのように理解し、情報をどのように処理するかを測定し、言語に基づく理解と表現の能力を評価します。

知覚推理指数(Perceptual Reasoning Index: PRI)

知覚推理指数は、視覚的な情報をどのように解釈し、利用するかを測定し、非言語的な内容での問題解決能力やパターン認識、図形と空間の理解を評価します。

作業記憶指数(Working Memory Index: WMI)

作業記憶指数は、情報を短期間記憶し、その情報を利用して課題を解決する能力を評価します。日常生活での計画や計算、一時的な情報の追跡などがどれだけ効率的に行えるかを見ます。

処理速度指数(Processing Speed Index: PSI)

処理速度指数は、簡単な課題をどれだけ迅速に処理できるかを評価します。

これらの指数と下位検査を通じて、WAIS-Ⅳは被験者の知的能力を総合的に評価し、その結果を通じて適切な教育や職業、治療を提供するための重要な情報を提供します。

WAISの実施方法とスコアの解釈

ウェクスラー成人知能スケール(WAIS)の実施とスコアの解釈は、被験者の知能を正確に評価するための重要なプロセスです。このセクションでは、WAISがどのように実施されるか、そして得られたデータがどのように解釈されるかについて詳しく説明します。

WAISの実施プロセス

  1. 資格を持つ専門家による実施: WAISは臨床心理士や公認心理師、その他の訓練を受けた専門家によってのみ実施されます。これはテストの標準化された手順に従って正確に行われる必要があるためです。
  2. 標準化されたテスト環境: WAISを実施する際には、干渉を最小限に抑えた静かな環境が用意されます。これにより、被験者が最大限のパフォーマンスを発揮できるようにするためです。
  3. 個別実施: このテストは個別に実施され、一人一人の反応やパフォーマンスを詳細に観察し、記録します。

スコアの解釈

  1. 全検査IQ(FSIQ): WAISの結果は、全検査IQとして報告されます。これは、被験者の全体的な知能レベルを示すスコアで、様々な認知的能力を総合的に反映しています。
  2. 指数得点: 各指数(VCI, PRI, WMI, PSI)に基づくスコアも提供され、被験者の言語理解、知覚推理、作業記憶、処理速度の能力をそれぞれ評価します。
  3. 下位検査のスコア: 各サブテストから得られるスコアは、特定の認知スキルや能力に関する洞察を提供します。これらのスコアを通じて、専門家は被験者の強みや改善が必要な領域を特定します。
  4. 結果の解釈と活用: 得られたスコアは、教育、職業選択、治療計画の策定など、具体的な目的に応じて解釈され利用されます。また、精神医学的な評価や障害のスクリーニングにも利用されることがあります。

このように、WAISは被験者の総合的な知能だけでなく、各種認知能力の詳細な分析を提供するための重要なツールとなります。

WAIS-Ⅳを受ける理由:何に役に立つのか?

WAIS-Ⅳは、知能指数を知りたい方や自己理解を深めたい方、発達障害の傾向を調べたい方など、さまざまな目的で受検されます。

教育分野での応用

WAISは教育的評価において重要な役割を果たします。学生や成人学習者の学習障害の有無を評価する際に用いられることがあります。このテストにより、個々の学習スタイルや必要なサポートの種類を特定し、カスタマイズされた教育計画を立てるための貴重なデータが提供されます。

臨床心理学における利用

WAISは精神疾患の診断支援や、治療計画の策定にも役立ちます。特に、神経発達障害や神経変性疾患の評価において重要なツールとされています。患者の認知機能の強みと弱みを詳細に理解することで、より効果的な治療介入が可能になります。

職業選択とキャリア開発

個人の職業適性やキャリア開発の指導にもWAISは利用されます。特定の職業に必要な認知能力やスキルセットを評価することで、個人のキャリアパスを最適化するのに役立ちます。これにより、個人のポテンシャルを最大限に活かし、職業的満足感を高めることができます。

当センタでは以下のような目的で受検される方々が多くいらっしゃいます。

  • 自分の知的能力(IQ)を知りたい
  • 知的に問題がないか知りたい
  • なにが得意・不得意か知りたい
  • 発達障害の傾向を調べたい(他の検査を含む)
  • 就職(転職)活動中に活かすため自己理解を深めたい
  • 仕事や人間関係がうまくいかない原因を探したい
  • 会員制高知能団体のMENSAへ入会したい

MENSAについて補足

MENSAの検査は元々MENSAが実施している検査によって入会可否を決めていたようですが、コロナ過で検査の実施が難しくなり、他機関でのWAIS-Ⅳによる検査結果を本来の検査の代用とすることを認められています(2024年4月時点の情報です)。ただし、今後はこうした代用検査は認められなくなる可能性もありますので、希望者はMENSAの公式HPをご確認ください。

ちなみに、当センタではMENSA受検のためにWAIS-Ⅳを受けられる方も多く、これまでに多くの方から「MENSAに入会できました」とご報告をいただいています。

外国人の方の受検について

ウェクスラー成人知能検査(WAIS-IV)は、世界的に広く使用されている成人向けの知能検査です。では、外国人の方はこの検査を受けることができるのでしょうか?

結論から言うと、WAIS-IVは、外国人の方でも受検することができます。ただし、以下の点に注意する必要があります。

言語の理解:WAIS-IV(日本語版)は日本語で実施されるため、受検者は日本語を理解できる必要があります。外国人の場合、日本語の理解度によって受検の適応が異なります。

文化的背景:知能検査は文化的背景に影響されることがあります。外国人の場合、文化的違いを考慮しながら検査を実施する必要があります。

専門家の判断:外国人の受検にあたっては、臨床心理士や専門家の判断が重要です。受検者の言語能力や文化的背景を考慮し、適切なアプローチを選択します。

ただ、やはり母国語版によるWAIS検査を受けた方が間違いはないでしょう。これは日本人の方が他の国でWAISを受ける場合も同様です。

WAIS-Ⅳを受けられる場所は?

知能検査は、基本的に病院や支援機関、施設のカウンセリングルーム等で受けることができます。発達障害の診断を受けたい場合は病院へ相談してみると良いでしょう。

当センタでもWAIS-Ⅳを始め、様々な心理検査を行っています。詳しくは下記ボタンよりご参照ください。