認知機能検査(DN-CAS)とは?「なぜ勉強がうまくいかないのか」を探る検査 ― DN-CAS特集記事

認知機能検査(DN-CAS)とは?
~「できない理由」を見える化し、学びを支えるために~
私たちが日常生活や学習の中で「考える」「覚える」「集中する」といった行為を自然に行っている背景には、脳のさまざまな認知機能が働いています。ところが、知能指数(IQ)の数値だけでは捉えきれない“学びにくさ”や“つまずき”が存在します。その理由を明らかにし、支援の手がかりを与えてくれる検査の1つがDN-CAS(Das–Naglieri Cognitive Assessment System)です。
DN-CASは、従来の「知能テスト」とは異なり、「どのように考えているか(認知のプロセス)」に焦点をあてる検査です。単に得点の高低を見るのではなく、「なぜできないのか」「どんな工夫をすればできるようになるのか」という実践的な理解につながります。
DN-CASが重視する「4つの認知機能」
DN-CASは、PASS理論(Planning・Attention・Simultaneous・Successive)に基づいて構成されています。
プランニング
・課題に取り組む際に「どう進めるか」を考え、戦略を立てる力。
・学習や仕事で「手順を整理する」「優先順位をつける」ことに関わります。
注意
・必要な情報に集中し、不要な刺激を無視する力。
・授業中に気が散ってしまう子や、仕事中に集中が続かない大人に関連します。
同時処理
・全体をまとめて理解し、パターンや構造を把握する力。
・図形の理解や、文章の意味をまとめて捉える力に関わります。
継次処理
・情報を順序立てて処理し、系列的に覚える力。
・言葉を順番通りに理解したり、正しい語順で表現することに関係します。
これら4つの認知機能を測定することで、「本人がどのプロセスでつまずいているか」を具体的に把握できるのがDN-CASの大きな特徴です。
なぜDN-CASが必要なのか?
IQテストだけでは見えない「学びの壁」
従来の知能検査(WAIS、WISCなど)は、能力を「数値」として示すことに優れています。しかし、例えば同じIQ90の子どもでも、「注意が続かないタイプ」「計画性が弱いタイプ」など、その原因はまったく異なることがあります。
数値だけでは「どう支援すればよいか」が見えにくいのです。
一方、DN-CASは学習困難の背景にある“認知機能の質”を明らかにするため、教育的・臨床的な支援に直結します。
学びの“苦手さ”を解き明かすツール
- 「漢字は覚えられるけれど、文章になると意味を理解できない」
- 「計算はできるが、文章題になると手が止まる」
- 「知識はあるのに、テストになると力を発揮できない」
こうした子どもや大人の悩みは、単なる努力不足ではなく、認知機能の特徴から説明できることがあります。
DN-CASは、苦手さの原因を“努力不足”ではなく“認知の傾向”として理解するための大きな助けとなります。
DN-CASの対象と有効性
子どもへの活用(小学生~高校生)
- 学習障害(LD)が疑われる場合の詳細な分析
- WISCなどのIQ検査だけでは理由が見えない「学習のつまずき」
- 集中が続かない、不注意が多い子どもの理解
- 文章理解や表現力が弱い子どもの支援方針の検討
教育現場では、どの学習方法が合っているかを判断する材料になります。
大人への活用(大学生~社会人)
- 「記憶力には問題ないのに、仕事の段取りが苦手」
- 「集中が続かず、作業効率が上がらない」
- 「学習や資格試験に取り組んでも成果が出ない」
大人においても、認知機能の偏りが日常生活や仕事のパフォーマンスに影響することがあります。
DN-CASは、自己理解や仕事の適応、再学習の支援に役立ちます。
(※ DN-CASの適用年齢は17歳迄のため、大人は成人用の別の検査でこうした認知機能を測ります)
他の検査との違い
- 知能検査(WAIS・WISC) → 能力の「高さ」を測る
- DN-CAS → 能力を発揮する「過程」を測る
この違いにより、DN-CASは「できる・できないの理由」を説明することが可能です。
特に、IQが平均範囲にあるにもかかわらず学びにくさを抱えている人に対して有効です。
「知能・認知・学習詳細検査」への展開
当センターでは、DN-CASを基盤にした「知能・認知・学習詳細検査」をご用意しています。
これは、WAIS/WISCなどの知能検査に加えて、DN-CAS等を組み合わせる包括的なアセスメントです。
- WAIS/WISC … 能力の全体像を把握
- DN-CAS … 認知プロセスの特徴を把握
このように、複数の検査を組み合わせることで、お子様の学習の特徴や問題点を立体的に理解することができます。
DN-CASを受けるメリット
- 本人が納得できる説明につながる
→ 「自分は怠けているのではなく、こういう考え方のクセがあるんだ」と理解できる。 - 保護者・教育者が支援方法を考えやすくなる
→ 「同時処理が弱いので、図を使って説明すると理解しやすい」など、具体的な工夫に結びつく。 - 将来の進学・職業選択に役立つ
→ 自分の強みと苦手を踏まえて進路を考えられる。
まとめ
DN-CASは、「学習や生活がうまくいかない理由」を明らかにするための大切な検査です。
単なるIQ数値ではわからない、認知のプロセスそのものを可視化できることが最大の強みです。
- 学校での学びに悩むお子さま
- 自分の能力を活かしきれないと感じる大人
- 発達障害や学習障害の有無を詳しく知りたい方
こうした方々に、DN-CASは大きなヒントを与えてくれるでしょう。
当センターでは、DN-CASを含む「知能・認知・学習詳細検査」を通して、一人ひとりに合った支援や理解をサポートしています。
ぜひ、この機会にご自身やご家族の認知機能の特徴を知り、より生きやすい環境づくりに役立ててください。

